心理学⑧ 交流分析 ドライバー 拮抗禁止令

本稿は、交流分析の中のドライバー・拮抗禁止令についての解説記事ですが、もしあなたが、ご自身を成長させるために来てくださったならば、
心理学① 自己理解を深めるためのワークシート | Jアカブログ (j-academia.com)
を先にお読みいただき、そのワークの一環として、本記事をお読みいただくと、より効果的です。本記事は、単に理論を解説するだけでなく、お読みいただくことで、自己理解・自己成長が図れるものにしたい、という意図で記しております。そのため、自分に特に強くかかっているドライバーは何かを、自己分析しながら読み進めていただくとありがたいです。

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拮抗禁止令

拮抗禁止令とは

拮抗禁止令ついての説明に入りますが、もしあなたが、TAの自我状態(CP~RC)をご存じない場合、先に「自我状態とは」をお読みください。また、拮抗禁止令は禁止令というものとセットで理解した方がよいため、禁止令をご存じない方はこちらを先にご覧ください(心理学⑦禁止令)。自我状態と禁止令をある程度ご理解されている前提で、この先の説明を記します。

禁止令と拮抗禁止令は、共に養育者から子供に与えられる命令です。ただ、養育者は、明確な意図をもってその命令を下したわけではありませんし、子供も、自分が命令されたと意識しているわけではありません。どちらも無意識のうちに、命令を出し、受け取っています。

そして、どちらもそのかかり方が一定値以上にきついと、人生に悪影響を与えます。そのため、自分にはどんな命令が下っているかを、知的に理解する。そして、意図的に、その命令を緩めていくことが大切になります。

では、その2つの違いですが、禁止令が、養育者と子供の間で行われる、非言語のやり取りによって形成されるのに対し、拮抗禁止令は、言語のやり取りによって形成されます。また、禁止令は、C(FC/AC/RC)の間のやり取りで、子供のCの中に形成されるの対し、拮抗禁止令は、P(CP/NP)の間のやり取りで、子供のPの中に形成されます。形成時期は、禁止令が、0~3歳で大本がつくられ、8歳ごろに完成するのに対し、拮抗禁止令は、4~6歳で大本がつくられ、12歳ごろに完成します。禁止令が先にでき、それの影響を強く受けながら、後から拮抗禁止令がつくられるわけです。

拮抗禁止令という名称の由来

先に作られた禁止令に、対抗する形でつくられ、その力がある程度拮抗すると考えられたため、拮抗禁止令という名前が付けられました。故に対抗禁止令ともいわれます。

もう少し具体的に説明します。例えば、禁止令「存在するな」がかかっていると、その命令に従っていたら生存できません。そのため、その対抗策として、無意識に、拮抗禁止令をPの中に形成します。この例では、そのうちの1つである「完全であれ」を形成したとします。すると、この2つが結びついて、「完全である限りにおいては、存在しても良い」という新たな命令に書き換わります(禁止令と拮抗禁止令が結びついたものを『複合決断』といいます)。本来、生存できなかった人が、この複合決断によって、条件付きで、生存を許可されるわけです。

まとめると、禁止令に対抗してつくられ、力が一定の拮抗を保っている命令なので、『対抗禁止令・拮抗禁止令』と呼ばれるようになった、ということです。

ただその後の研究で、前提である禁止令がない状態で形成される拮抗禁止令があることや、禁止令を悪い意味でより強化してしまう拮抗禁止令があることがわかってきました。そのため、本来「拮抗禁止令」という言葉はおかしいのですが、その名前自体は今でもそのまま使われています。

ドライバー

禁止令同様、拮抗禁止令もたくさんありますが、その中でも特に5つの拮抗禁止令のことを、ドライバーといいます。Driver その人を駆り立てるもの、という意味です。

それではその5つを、詳しくみていきます。自己理解・自己成長のために、本稿をお読みいただいている方は、自分はどれが1番、強くかかっているか?どれが1番、自分の人生に悪影響を与えているかを考えながら、読み進めてください。

完全であれ

このドライバーがかかると、いわゆる完璧主義に陥ります。そして完璧であるためには、努力を惜しみません。とても努力しますので、実際、有能であることが多いです。半面、たいてい「存在するな」などの禁止令と複合決断をしているので、失敗や批判にものすごく弱いです。例えば他者から批判されると、その瞬間は世間体・名声という意味では完全でないため、自身の存在そのものが否定された気になってしまい、ものすごく劣等感を感じたり、癇癪を起こします。

人は、幸か不幸か、不完全な生き物です。どう頑張っても完璧にはなれません。そのためその完璧であろうと努力は、残念ながら不毛な努力と言わざるを得ません。そして、いつまで経っても完璧になれないので、本当の意味で、自分に自信を持つことができません。人生のどこかのタイミングで、このドライバーを緩め、不完全な自分を受け入れられるようになると、それまでよりずっと生き易くなります。

と、ここまではほとんどの解説に書かれている内容ですが、もう1つ、「完全であれ」がかかっているタイプがあります。

上記のタイプは、努力すれば完璧になれるという希望があるから、膨大な努力を継続できます。しかし生育過程で、頑張ったけれど失敗したとか、頑張っている最中に『お前にできるはずがない』などと言われることが繰り返されると、努力すること自体を放棄してしまう人がいます。しかも「完全であれ」がかかっているから、このタイプは、努力することを完全に放棄してしまいます。

このタイプの方は、本当に努力しないので、いろいろなことが不完全です。“完全に不完全”と言ってもいいかもしれません。パッと見、前者のタイプとは、多くの面で真逆です。そのためTA初学者は、この後者のタイプには「完全であれ」はかかっていないとみなしがちですので、ご注意ください。

最後に。私は5つの中で、この「完全であれ」に一番多く紙面を割きました。それは何故かというと、このドライバーがかかっている人が一番多い、もっというとかなり多くの方にかかっているドライバーだからです。あなたはどうか、今一度よくお考えになってください。

私を喜ばせよ

原語は「Please me」であるため、それを直訳しましたが、目の前にいる他人を喜ばせよ、という命令です。

このドライバーがかかっている人は、他者にストロークをたくさんします(「ストローク」)。そして、表立って、相手を怒らせるようなことはしません。目の前の人を批判したり、表立って反対意見を述べることはしませんし、基本的に聞き役に回ります。何かを言われると、素直に「はい」と、その場では言います(その後、やらないことが多い)。全てのドライバーに共通しますが、ドライバーが強くかかっている人は、劣等感が強いです。「私を喜ばせよ」の場合、自分に自信がないため、他者に迎合することで、自分を守ろうとします。

努力せよ

原語は「Try hard」です。「完全であれ」と似ているようにみえますが、「完全であれ」は結果にこだわるため、よく結果・成果を出します。しかし「努力せよ」は努力すること自体が目的なので、結果が伴わないことが多いです。機会があったら記事にしますが、脚本分析というTAの最終目標の分析でも、「完全であれ」から努力している人の方が、「努力せよ」から努力している人よりは、まだ“ましな”脚本になったりします。

本当はやる気がない。だけれど、怒られたくないから、必要なことをやっているふりだけしておく、という感じです。例えば、すごい長時間職場にはいる。けれど実はスマホで遊んでいる、ボーとしている時間が長い、全然集中していない、というタイプです。

強くあれ

これも大きく2つのタイプがあります。

1つ目は、悲しみや恐れの感情が強く抑圧されるタイプです。泣くと怒られる家庭で育てられると、このドライバーがよくかかります。悲しみや恐れを感じると、「強くあれ」が作用し、瞬間的に悲しみ・恐れを抑圧してしまいます。多くは、悲しみ・恐れを自分が抱いたことに気がつけないレベルです。「怖いもの知らず」と自称する人の中には、このタイプが多くいます。また、感情全体に「強くあれ」がかかっている人だと、感情自体を感じにくくなっており、無表情・平板・単調な感じになります。感情的にならないことが強いことだと思っている養育者の価値観が、子供に押し付けられた形です。

もう1つは、弱いと思われることを極端に怖がるタイプです。攻撃的な服装や口調で、威圧的な雰囲気をまといます。いわゆる不良少年などはこの典型です。なお、女性にもこのタイプの方はいますし、実際に不良少年ではなかった人でも、このドライバーをもっている人はいます。

急げ

いつもせかせかしている。早口で、落ち着きがない人は、このドライバーが強くかかっているかもしれません。「早くしなさい!」と繰り返し養育者に怒られると、このドライバーを持ちがちです。

1つ選ぼう

5つのドライバーは、どれか1つだけ持っている、ということはまれで、ほとんどの人は複数のドライバーをもっています。しかし、まずはその中から1つ、一番問題だと思うドライバーを選んでください。

そして、心理学⑦と本稿で、禁止令12個・ドライバー5個を紹介したことになります。この計17個の中から1つ、自分にとって、今、一番、人生のボトルネックになっていると思うものを選んでください。次段落で、それぞれの緩め方を記しますので、その1つを集中的に緩めにかかってください。

禁止令とドライバーの緩め方

禁止令・ドライバーに対しては、自らに「許可」を与えることによって、その悪影響を減らしていきます。

許可の言葉を見つける

禁止令は全て「~するな」という禁止の命令形になっていますので、その許可の言葉は「~してもいい」になります。「存在するな」ならば、「存在してもいい」です。

ドライバーは、「完全であれ」には「今のあなたで十分にいい」/「私を喜ばせよ」には「自分を喜ばせよ」/「強くあれ」には「オープンであり自分の欲求を表現しろ」「弱くてもいい」/「努力せよ」には「やれ」/「急げ」には「十分時間を取れ」です。

どちらも、自分にしっくりくる言葉を探し出してください。もっと長くしてもいいですし、いわゆる名言から選んでもいいです。下にリンクを貼りますが、私は別記事で名言集を作っていますが、もともと禁止令とドライバーを知っていたので、それらの「許可」になる言葉を、わざと多く選んでいます。もし名言をお探しなら、私の記事をまずは見て欲しいです。

禁止令・ドライバーの緩め方

まずやっていただきたいのが「アファーメーション」です。別記事で詳しく説明しましたので、そちらをご覧ください。(アファーメーション

かかり方が弱い場合、アファーメーションだけで随分改善されますが、かかり方がきつい場合、セラピストの力を借りるのも手です。交流分析の場合、再決断療法という手法を用います。

もし実際にカウンセリングを受ける場合、本当に良いカウンセラーを探すようにしてください。いくつものカウンセリングルームの説明を受ける/事前にカウンセラーに会って話をする等です。私はかれこれ30年心理学の世界にいますが、はっきりいって玉石混交ですので、注意が必要です。

禁止令やドライバーは外せるのか?

TAの解説記事によっては、「緩める」ではなく「外す」と書かれていますが、私の感覚では、完全に外すことは難しいと思いますし、そもそも完全に外す必要はないと考えています。

禁止令とドライバーは、かかり方がある値を超えると、本人が許容できないレベルで、人生に悪影響を及ぼします。そのため、本人が許容できるレベルにまで緩めていく必要はあります。

禁止令・ドライバーは通常、無意識に、その人を突き動かします。一定以上、それを緩めると、今度は「今、自分は突き動かされている」ことに気づけるようになります。ここまできたらもう十分で、もしかするとそれは短所かもしれませんが、自分の個性の一部だと思い、その短所も抱えたまま生きていく。『良いところも悪いところもひっくるめて、今の自分で十分いい』。腹にしっかり落ちた形でそう思えたならば、とても素敵だと思うのです。

お勧めの本

今回は以上です。なお、本稿をお読みいただき、交流分析についてもっと知りたいな、と思われたら、こちらから、私がお勧めする本をご購入いただけると嬉しいです。新品も中古も用意してあります!

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。

心理学④ 交流分析 自我状態 エゴグラム | Jアカブログ (j-academia.com)




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