本稿は、交流分析の中の自我状態、並びにエゴグラムについての解説記事ですが、もしあなたが、ご自身を成長させるために来てくださったならば、
心理学① 自己理解を深めるためのワークシート | Jアカブログ (j-academia.com)
を先にお読みいただき、そのワークの一環として、本記事をお読みいただくと、より効果的です。本記事は、単に理論を解説するだけでなく、お読みいただくことで、自己理解・自己成長が図れるものにしたい、という意図で記しております。そのため、現在、自分はどの自我状態が低いことが、人生のボトルネックになっているかを、自己分析しながら読み進めていただくとありがたいです。
初めに
皆様、こんにちは。
今回を含め4回に渡り、『交流分析』について投稿していきます。
そのため、まずは交流分析について、軽く記しておきます。
交流分析(Transactional analysis)は、エリック・バーンによって創られた心理療法です。また、エリック・バーンは元々フロイト門下なので(後に破門)、精神分析の1つです。英語の2つの頭文字を取って「TA」と略称されることも多いです。
TAは様々な分析手法を通じて、クライエントの自己理解を促す心理療法ですが、その中でも、初学者の方にまず知っていただきたい4つの分析についての解説記事を、順次投稿していきます。なお、初めの段落の通り、通常の解説記事とは趣旨が異なるため、中級者以上の方にもお読みいただけると嬉しいです。
初回は、交流分析の基本の基本、自我状態について記述します。
自我状態とは
交流分析では、人間の中には6人(5人)の自分がいる・性質があると考えます。その6個の性質それぞれの強弱が人によって異なり、その差が「個性」となります。そして、その6個の自分・性質を「自我状態」と呼びます。つまり、人間には6個の自我状態があり、それぞれ強弱がある。そのバランスが、その人の性格・個性だとみなす、ということです。
では、具体的に自我状態を見ていきます。それぞれの自我状態の、上段がプラス面・下段がマイナス面です。
CP(Critical Parent)批判的親
リーダーシップ・指導力の源泉。高い理想を掲げ、それに向かって努力する力。道徳的で、文化・伝統を重んじる。父親的。
高い理想を追うため、自分に対しても、他者に対しても厳しい。あら探すをする。批判的。長所より短所が目に付く。口うるさい。
NP(Nurturing Parent)養育的親
優しさの源泉。短所よりも長所を見る。自分と異なる意見や、他者の失敗に寛容で、受け入れる。褒める。励ます。許す。母親的。
甘やかして、駄目にする。𠮟るべき場面でも、見逃す・見て見ぬふりをするので、結果・数字は出せない。自分にも甘いので、いい加減で、結果・数字を出すのは苦手。
A(Adult)成人
知性の源泉。論理的、客観的。様々な情報を集めた上で、分析→決定する。そして、Aの最大の武器は自律性。他の自我状態の情報を集め、綿密に分析した上で、今、ここでは、どの自我状態を優先するかを決定し、他を制御する。やりたくないことでも、必要なことならば、やり抜く力。やりたいことでも、やることのデメリットが大きければ、やらない力。感情的ではなく、理性的・理知的。
Aが高すぎると、機械的で人間味が感じられない。とっつきにくい。
FC(Free Child)自由な子
人が生まれながらに持っている唯一の自我状態。喜び・恐れ・悲しみ・怒りの感情。天真爛漫。ユーモア。率直。積極的。自己肯定感の源泉。
自分勝手・わがまま。感情的・直観的。非現実的な妄想をする。
AC(Adapted Child)順応の子
表面上、礼儀正しく謙虚、素直。
強い劣等感。抑うつ的。不安感が強い。受け身。自責。暗い。よく嘘をつく。
RC(Rebellious Child)反抗の子
独立心旺盛。一時的なエネルギーは1番高い。
反抗的。独善的。言い訳がましい。他責。不平不満・悪口・陰口が多い。人間関係を破壊する。
RCは一般的ではないけれど。。。
交流分析の本を読んだり、ネットで調べると、ほとんどのものにはRCがなく、自我状態は5つだ、と書かれています。
もともとRCは、エリック・バーン自身が言い出したものでしたが、結局のところ、ACとRCは同じものだから、まとめてしまおう、ということで、その後は記述などからも消えてしまいました。そのため、今ではあまり目にしない自我状態です。
ただ、改めて上記の説明をご覧いただきたいのですが、ACが強い人とRCが強い人では、まるで別人、全く逆のタイプの人間に見えます。そのため、精神科医やカウンセラーではない、親・経営者・上司・先生の皆様が交流分析を使う場合、ACとRCは別物として扱った方が、わかりやすく実践的だと、私は考えています。そのため私の記事では、別物として扱っていきます。
PAC
自我状態は6個ありますが、その6個を大別すると、Pが付くCPとNP、Aは単独、Cが付くFCとACとRCの3つに分けられます。
それぞれが何かというと、Pは価値観/Aは理性/Cは感情です。フロイトの構造論に照らすと、Pは超自我/Aは自我/Cはidに、全くのイコールではないですが、一応該当します。
エゴグラム
エゴグラムの解説と問題点
エゴグラムとは、その人の自我状態の高低をグラフ化したもので、ジョン・M・デュセイ(John. M. Dusay )によって考案されたものです。
もともとは、TAの訓練を受けた精神科医が、自分の目で患者を診て、自分の手でエゴグラムを描いていましたが、確か日本人が、今の質問紙形式を考え出し、少なくとも日本では、エゴグラムといえば質問紙形式が一般的になっています。
ここで重要な点は、質問紙形式のエゴグラムは、はっきり言ってしまうと、かなり当てにならない、という点です。交流分析の訓練を受けていない人が、最も客観視しにくい自分自身を分析する訳ですから、めちゃくちゃな値になるのは当然です。
ただ私は、「それでいい」と思っています。まず、多くの質問に答えていく過程で、気づきを得ることがあります。そして、自分で自分のことをどう見ているかが、可視化されるので、そこで得られる気づきもあります。
また、数年の間は、1年に1回くらい、エゴグラムを取り直すことをお勧めします。何度か取り直すと、自己理解の深まりにつれて、どんどんエゴグラムの形が変わっていきます。「昔、思っていたより、NPが高いなあ」とか、「思っていたよりAが低いわ」等です。その気づきもまたいいと思うのです。
つまり、複数回エゴグラムをやることで、自分自身への理解が深まり、人間として成長していける訳です。質問紙形式のエゴグラムは、正確性に難があるというデメリットを持ちながらも、自己成長を促すツールになるというメリットがあるため、「それでいい」と思っています。実際、エゴグラムを取ることを、精神疾患の治療に活かされている精神科医の先生もいらっしゃるくらいです。
エゴグラムをやってみよう!
本当なら、私が作ったエゴグラムを提示できると良いのですが、正直、大変すぎるので、作っていません。
ネットを検索すると、たくさんエゴグラムが出てきます。RCがあるものも見つけましたので、リンクを貼っておきます。
株式会社ヒューマンスキル開発センター様
https://www.human-skill.co.jp/service/tps/tps_checklist.html
あと、本稿の最後に、RCが含まれるエゴグラムが載っている本もご紹介します。そちらを購入するのも、とても良いと思います。
もし、どちらも面倒、ということでしたら、RCのないエゴグラムをやってみてください。知りたいのは、CP・NP・A・FCの値なので、RCがなくても、ものすごく大きな支障はないです(絶対にあった方が良いですが・・・)。
問い 低くて困っている自我状態はどれですか?
ポイント1 低い自我状態に注目する
TAでは、高い自我状態を下げようとするのではなく、低い自我状態を上げようとします。
低い自我状態というのは、平素、あなたが使っていない自分の要素です。だから、それを上げようとする=低い自我状態に意識を集中することで、普段、眠っている自我状態に刺激を与え、活性化させるためです。逆に、高い自我状態を下げようとすると、意識はその高い自我状態に集中してしまい、かえってそれが上がってしまうという、おかしなことが起こります。
低くて困っている自我状態を選び、それを上げるための課題を自らに課していきます。
ポイント2 CP・NP・A・FCの中から選択する
TAにもいくつか学派があり、今から述べることは、学派によって意見が割れる内容であることを、予め断っておきます。
人は生まれた時には、FCしか持っていません。しかし、例えば男の子が、怖くて泣いたとします。その時に、お父さんに『男のくせに、ピーピー泣くな』と怒鳴られると、どうなるでしょう?その後は、本当は怖くて泣きたいのに、それをぐっと我慢して、泣かないようになります。怖いという感情や、わーと泣くという行動は、FCから発せられますが、その感情や行動、つまりFCが抑圧されるようになります。このような感じで、赤ちゃんから幼児になる過程で、繰り返し、FCは抑圧され続けます。
人の感情というのは、一旦抑圧して、顕在意識から追い出したとしても、実はなくなることはありません。潜在意識の中で、マグマのように、ぐつぐつ噴火の時を待っています。TAでは、FCが抑圧されたことにより、新たに生まれた自我状態を、AC/RCと呼んでいます。生まれながらに持っているFCが抑圧されることによって、‟不自然に”生まれたのがAC/RCなのです。
赤ちゃんが、成長して社会に適応していくためには、時に叱られたり、しつけられることが、絶対に必要です。ただその度に、FCが抑圧され、AC/RCが上がります。そして、ここが学派によって意見の割れるところですが、私も、AC/RCは、プラス面よりマイナス面の方がはるかに大きい自我状態だ、と思っています。悪い面が多いAC/RCを上げるくらいなら、確実にプラス面がある他の4つを上げるべきだ、という考えです。
どんな人にも、必ず欠点・短所がありますが、TA的に解釈すると、欠点・短所というものは、ある自我状態が低すぎることによって発生するものです。どこかの自我状態が低いことが、その人の人生のボトルネックになっているともいえます。ご自身の場合、それはどれなのか?1番問題な自我状態を特定することが、まずはとても重要です。
基本的には、4つの中で、1番点数が低い自我状態で良いと思います。ただ、エゴグラムは正確性に難があるので、再度、自我状態の説明を読んでいただき、「自分はこれが低いから、人生、上手くいかないんだ」と思われる自我状態を選択してください。それでも迷われる場合、最後は勘で結構です。(デュセイ先生も、勘が重要だと言っています。)
4つの自我状態の上げ方
CPが低い人の課題例
月に1回、〇〇(子供・部下・生徒など)を叱る
CPが低い人は、他人に甘いです。叱るべき時に叱れないことが多い。そのため、回数を決めて、叱る訓練を積んでいきます。月1回が2ヶ月連続で達成できたら、月2回に増やします(NPの欄参照)。月何回まで増やすかは、対象者の人数によるので、ご自身でお決めください。
また、CPが低い人は、自分にも甘いです。そのため、自分で決めたルールを守ることも苦手です。故に本稿の、課題を達成する、というのが一番苦手なのも、このタイプの方です。
そこで・・・
毎日、(何か)をする。(例)日記を書く・靴をそろえる・新聞を読む
という、自分に対してのルールを決める、という課題でもいいと思います。なお、心理学に詳しくて、特にアドラーをやられている方は、叱ることに抵抗が強いと思います。そういう方は、この自分に対するルール設定が良いと思います。
NPが低い人の課題例
月に1回、全ての子供・部下・生徒を褒める。
私はこれをやっていました。もし2ヶ月連続で褒められたら、月2回に増やし、最終的に月5回を目指してください。これは、ちゃんとやったら効果絶大です。
ここにもう少し詳しくこの課題を説明してあるので、これをやられる方はご一読ください。なお、CP・FCの課題例も要領は同じです。
子育て・人財育成・教育② 褒めることは難しい! | Jアカブログ (j-academia.com)
Aが低い人の課題例
毎日、新聞を1記事以上読む。
Aが低い人は、知的作業が苦手です。そのため、知的な課題がお勧めです。
FCが低い人の課題例
月に1回、笑いをつくる。
ユーモアも大事な力ですが、FCが低い人はとにかく苦手です。そこで、月に1回、自分から笑いをつくる、という課題はいかがでしょう。これも2ヶ月連続で達成したら1回増やし、月5回を目指します。
全てに共通すること
決まった期間に決まった回数を行う、という課題は、実は全てAを鍛えることになります。
Aには、知的な機能と共に、自律性というものすごく大事な機能があります。例えば、『今日はやりたくないなあ』という内なる声は、Cから発せられますが、そのCの声を、意志の力・理性でコントロールする、これがAの働きです。自分を律していく力=自律性です。TAでは、この自律性こそが、幸せになる鍵だと考えます(近年、Aを鍛えるだけでは足りないケースがあることもわかってきていますが、かなり難解な話になってしまいますので、ここでは触れないでおきます)。Aを鍛えていくことは、全ての人にとって大きな意味がありますので、4つの自我状態を鍛えつつ、Aも鍛えていける「決まった期間に決まった回数、何かをやる」という課題を、お勧めしてします。
以上のことを踏まえて、ご自身にとってベストな達成課題をお考えになってください。
最後に・交流分析のお薦めの本
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
自我状態の解説は以上になりますが、最後に、お勧めの本を紹介します。
幸せの心理学(上下巻)
私は結構長いこと交流分析を勉強してきているので、本もたくさん持っていますが、その中でも、TA初学者が本を買うなら「この本だ」と思っています。RCを含むエゴグラムも入っています。ちなみに当社では、内定者研修の1つとして、全ての内定者に、この本を上下巻渡し、要約・所感を書いて提出してもらっています。
TA TODAY
交流分析のことは少し知っています、という方が、次に買うなら絶対この本です。中級以上のTA学習者は、おそらくほぼ全員持っています。
この本は、初めから読んでいってもいいのですが、私は辞書として使っています。TAを勉強していく過程で、何かわからないことが出てきた時、この本を調べれば大抵答えが載っています。英語を勉強するには、辞書がないと始まりません。この本は、交流分析にとって、正にそういう本です。
心理学全般に言えることですが、TAもまた、一生をかけて学んでいく学問です。その長いTAライフの欠かせない一冊です。
人生脚本のすべて
もう交流分析の基本は理解しています、という人が、次に本格的に取り組むべきなのが『脚本分析』です。自我状態分析・禁止令・ゲーム分析などなどは、最終的に脚本分析をするためのものです。エリック・バーンが自ら書いた、中核理論の解説書。。。お勧めです。
いずれも、こちらからご購入いただけると、とても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
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