心理学③
エリクソンのライフサイクル論

本稿は、エリクソンのライフサイクル論についての解説記事ですが、もしご自身を成長させるためにエリクソンをお調べなら、
心理学① 自己理解を深めるためのワークシート | Jアカブログ (j-academia.com)
を先にお読みいただき、そのワークの一環として、本記事をお読みいただくと、より効果的です。本記事は、単に理論を解説するだけではなく、お読みいただくことで、自己理解・自己成長が図れるものにしたい、という意図で記しております。そのため、現在、自分はどの発達段階に毀損があるかを、自己分析しながら読み進めていただくとありがたいです。


今回は、発達心理学です。

人が生まれてから死ぬまで、どのように心理的に成長していくかを研究するのが発達心理学ですが、発達心理といえば、特に2人、有名な先生がいます。それが、ピアジェ(Piaget,J.)と、今回ご紹介するエリクソン(Erikson,E.H.)です。


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基本的な解説

ネットから拾ってきたフリー画像をご覧いただきながら、読み進めてください。なお、以下の解説では、平素、私が使っている言葉・用語で記します。

人間には、生まれてから死ぬまでに、8つの発達段階があり、それぞれの段階に、獲得すべき美徳(Virtue)(=人間の強さ)があると考えます。それを獲得できると左側/獲得できないと右側になってしまいます。

具体的には(1番下を使います)、乳児期に、希望を持つことができた子供は、基本的信頼を獲得し、希望を持てなかった子供は、基本的不信を獲得する、ということです。

ポイント1

エリクソンのライフサイクル論(人が生まれてから死ぬまでの間、どのような心理的変化を遂げるのかについての考え)では、基本的に「前の段階の発達課題が達成できないと、次の発達課題も達成できない可能性が高い」と考えます。

前提として、達成率100%や0%ということはありません。人間は不完全な生き物ですから、100%完璧にできる、ということもないですし、逆に、全く何もできなかった、ということもありません。

その上で、どこかで達成率がある値を下回ってしまうと、そこから先の発達課題は、全て未達に終わる可能性が高い。逆に、どこかである値を超えると、その先全ての発達課題が達成される可能性が高い、ということになります。ただ現実的には、その値に良くも悪くも到達しない人が多いので、8個のうち、どれかは大丈夫だけど、どれかが弱い、ということが多いです。

今回のワークでは、自分はどこが特に弱いかを見つけ出してもらうことが目的です。

ポイント2

ここまでお読みいただき、どのような感想をお持ちになりましたか?

初めてこの理論を知ったのは高校生の時でしたが、私は絶望しました。自分の場合、1番初めの基本的信頼から毀損していると思ったので、『じゃ、俺のこれから先の人生、どうにもならないじゃないか・・・』。そこから救いを求めるように、本を読み進めると、書いてありました、「後からでもやり直すことができる」と。

そのために有用な手段が、本来精神疾患の治療に用いられる臨床心理学・心理療法の手法です。私のお勧めするワークショップは、基本的にその手法を用いています。

では、ここから、それぞれの発達段階について見ていきましょう。

各発達段階の詳細

基本的信頼

人間というものを、そして自分自身を、基本的に信頼しているか否か?です。

赤ちゃんは言葉がしゃべれません。泣くことで、多くの欲求・感情を表現しようとします。おなかがすいても泣きますし、眠くても泣きます。

泣いたときに、求めているものをすぐに与えられると、満足します。要求に対して、ぴたっぴたっと答えてもらえた人は、『自分は大事にしてもらえている。大事にしてもらえる自分には価値があるし、大事にしてくれるこの人(主たる養育者)もまた大切だ』と、非言語で、無意識に、思い込みます。これが基本的信頼の原型です。自分は価値がある。相手≒人間も価値がある。赤ちゃんは養育者しか人間を知りません。故に、その養育者を価値ある存在だと感じれば、人間そのものを価値があると思い込みます。

逆を言うと、例えば眠いから泣いたとします。赤ちゃんがしてほしいことは、実際に寝るまで、抱っこしてもらい続けることです。しかし、泣いても来てくれないとか、抱っこしてくれたとしても、すぐにベッドに置かれ、また泣き出す、ということが繰り返されると、無意識のうちに、自分には価値がない/そういう扱いをしてくる養育者≒人間は信頼できない、と思い込みます。これが基本的不信の原型です。

母乳か否か。卒乳のタイミングはどうか。話しかけ・笑いかけ・抱っこの頻度はどうか、などなど、主たる養育者の育児姿勢で、基本的信頼or基本的不信が決まります。

自律性と積極性

自律性or恥を決める代表的なものが、トイレトレーニングです。自律性とは、自分の欲や感情を、意志の力でコントロールする力です。トイレトレーニングは、排泄欲求を、トイレに行くまで我慢する訓練なので、正に自律性が問われます。

厳しすぎる養育者に育てられると、失敗の度に厳しく怒られ、恥の意識を持ちます。また、甘すぎる養育者に育てられると、いつまで経ってもオムツが取れません。すると、例えば幼稚園で、おしゃまな女の子に、『〇〇君、まだオムツなの』と笑われて、恥の意識を持ちます。そして、脳の発達とともに、その恥の意識は、罪悪感につながっていきます。

適度に優しさと厳しさ(しつけ)を両立できる養育者に育てられると、トイレに間に合ったときには、たくさん褒められます。すると、『よし、今度は失敗しなかったぞ』と成功体験を重ねていき、自分に自信を着けていきます。失敗しても、しっかり慰められますので、『そうか、あまり気にしなくてもいいんだ』と思い、自信を失いません。多くの子は、トイレトレーニングを嫌がりますが、必要なことなので、子供が泣こうが怒ろうが、トイレトレーニングを完遂させ、年相応にトイレに行ける状態をつくります。成功体験を多く積み重ね、失敗してもさしてダメージを負わない。幼稚園・保育園でも大丈夫となると、必然的に自己肯定感が高まります。すると、自分に自信があるので、『自らいろいろやってみよう』と積極性も育っていきます。

補足ですが、これらはほとんど無意識レベルでの精神活動です。無意識のうちに、そう思い込む、という感じです。

こうやって、いわゆる自己肯定感が高い子と低い子/積極的な子と消極的な子に分かれていきます。

(注)この積極的・消極的というのは、日本の場合は注意が必要です。エリクソンは、ドイツ生まれ→アメリカ移住なので、積極的であることを良しとする文化圏の人です(特にアメリカ)。対して日本は、『謙譲の美徳』という言葉もある通り、積極的に自己主張をせず、まずは相手の話を聞くことを良しとします。そのため、日本人の場合、他の発達課題と比べ、積極性の優先度は落ちると思います。

勤勉性

小学生です。言うまでもなく勉強が始まります。

自己肯定感の高い子は、自分に自信がありますので、『次のテストで100点を取ろう』といった目標を持ちます。すると、授業もちゃんと受けるので、必然的に成績も良くなります。副教科も同じ、友達づくりも同じです。そうすると、努力したら結果が出るので、また努力する。その好循環の中で、学力・脳力・人間関係構築能力などが実際に上がり、勤勉性が育っていきます。

人は、自分が頑張ったらできそうだ、という希望が持てなければ、頑張ることはできません。

逆に自己肯定感が低い子の場合、『自分はどうせやってもできない』と思い込んでいますので、授業も真面目に受けません。当然、結果は出ませんし、親にも怒られます。その結果、劣等感を強く持つようになり、ますます努力しなくなります。

人は、やってもどうせできない、と思っていることを、頑張ることはできません。

アイデンティティの確立

アイデンティティ。今、いろいろなところで、いろいろな意味で使われていますが、この言葉を作ったのがエリクソンです。また、自我同一性というのは、アイデンティティの日本語訳です。

このアイデンティティですが、私の知っている範囲では、エリクソン自身が、きちっとした定義を残していないはずです(私の勉強不足ならすいません)。そのためいろいろと解釈されることになる訳ですが、ネットでこのような定義を見つけました。

「 自分は一体何者かという自問に対する肯定的かつ確信的な回答を持っていること 」

いかがでしょう?皆様はこれで理解できますか?

大学の授業でも、心理学の教科書でも、だいたいこのような定義が載っていますが、どうにもピンとこない。そこで私なりに、もっとわかりやすく解釈してみます。

私は、「その人独自の価値体系」と「一定以上高い自己肯定感」が獲得された時、「アイデンティティが確立できた」と理解しています。

前半がわかりにくいですね。追記します。

例えば、人間とは?生きるとはどういうこと?仕事はなぜするの?など、決まった正解がない問いに対して、自分なりの回答を持っている状態を、「その人独自の価値体系が確立されている」と理解しています。正解のない問いは膨大にあるため、その全てに解答を持つ必要はありませんが、多くの解答を持っている方が、よりアイデンティティは強固に確立されている、と言えると思います。

また、その価値観が、一定以上の社会適応性を持っている必要もあります。極端な話、『泥棒は良いことだ』という価値観を持っていたら、何度も警察に捕まるわけで、それでは心理的成長以前に、社会生活が送れません。

様々なことに対し、一定以上健康的な価値観を持っていて、且つ人間関係を構築する力と、将来の仕事力の基礎になる力(スポーツ選手なら運動能力、多くの人なら学力)を高く持っていると、クラスや部活の中に、しっかり自分の居場所を確保できます。学校も楽しいでしょう。そうすると、学校・クラスなど、自分の居場所に高い忠誠心・帰属意識を持つようになります。それが次の親密性の基礎になっていきます。

親密性

これは大きく2つです。仕事と結婚/就活と婚活。要するに親密性とは、仕事と配偶者を愛する力です。

仕事を愛し、その仕事を一生懸命頑張るか否か。特定の異性と、末永く仲良く過ごせるか否か。これらに親密性は深く関わってきます。

エリクソンは生前、『自分を、この人のためにかけてもいいと思えるほどの相手はいますか?』という問いを、よくしたそうです。これは親密性を問う質問だろうと思います。

親密性が弱いと、孤立に陥ります。

世代性・生殖性

人を育てる力です。自分の子供、部下を、時に厳しく、時に優しく、育てられるか否か。もし育てられるならば、自分が学び取ってきたものが、次の世代に引き継がれています。そのため『世代性』と言われます。

逆に、例えば職場で、部下を育てられないとすると、出世もできませんし、重要な仕事も任せられません。同じ仕事を延々とやることになるので、新たな学びもありません。このようにして、人生が停滞していきます。

叡智・英知

若い世代から尊敬され、大事にされる老人がいます。長老や老賢者のイメージです。そういう方たちは、長い人生経験の中から学び取った叡智を持っているため、若い人から頼りにされます。実際に若い人たちの役に立つので、感謝もされ、大事にされます。

そして、死の恐怖ともしっかり向き合うことができます。そのため、パニックになったり、自暴自棄になることもありません。金銭的にも余裕があり、正に幸せな老後を過ごします。

逆の場合、癇癪持ちがよりひどくなったり、ますます悲観的になったりして、若い世代から疎まれてしまいます。迫りくる死への恐怖、ひっ迫する経済状況、自身の人生への悔恨などから、精神的に追い詰められてしまうためです。

超越

このフリー画像には載っていないのですが、マズロー同様、エリクソンも晩年、9番目の段階『超越』を付け加えています。

多少の違いはありますが、私はマズローの自己超越と、ほぼ同義に見ています。マズローの欲求段階説に説明がありますので、そちらをご参照ください。
心理学② マズローの欲求段階説 | Jアカブログ (j-academia.com)


問い あなたはどの発達段階が弱いでしょうか?

ここでの注意点は、基本的信頼/自律性/積極性/勤勉性/アイデンティティの確立の中から選択してほしい、ということです。

というのも、親密性以降は、上記5つの中に、一定値以上に弱いものがあると、それが足かせになって、獲得しずらいからです。逆にいうと、上記5つを強化すれば、親密性以降は、自然と付いてきます。

また、達成課題を立てるのが難しいものが多いので、それぞれ案を挙げておきます。

自律性:毎日、靴をそろえる。
面倒だったり、忘れてしまったり、家族の中の誰かに腹を立てていたら、その人の靴はそろえたくなかったりします。それ故に、それを、毎日、欠かさずに行うことで、意志の力が鍛えられていきます。

積極性:会議に出たら、必ず1回以上、自ら発言する。

勤勉性:毎日、新聞を15分以上読む。

この3つに関しては、このような例が考えられます。例を参考に、ご自身にとって、ベストな達成課題をお考え下さい。

基本的信頼
これは、自力では難しい発達課題だと思っています。

私自身は、これに一番の課題を感じていました。そこで私が取った手は、一流とされるカウンセラーのカウンセリングを受ける、でした。複数の心理療法を、数えていないので正確な数はわかりませんが、合計で100回以上は受けたと思います。なお、単に基本的信頼の回復だけでしたら、もっと少ない回数でも大丈夫な人は多いです。

  • もし皆様もカウンセリングを受けられるならば、本当に腕の良い人を探してください。カウンセリングは、腕の悪い人にしてもらうと、良くなるどころか悪化します。特に心当たりがない場合、しっかり活動している心理学系の学会が用意しているカウンセリング・ワークが良いと思います。
  • 参考までに私が受けた心理療法と、その順番も記しておきます。まず初めのうちは、TAゲシュタルト療法・再決断療法・ゲシュタルト療法を中心に受け、その後、来談者中心療法・エンカウンターに切り替えていきました。前半はテクニカルな心理療法(他には認知行動療法など)、後半は傾聴中心のものです。理由の記載は省きますが、基本的信頼の回復には、下線の順番が効率が良いと思います。あと、後半は自己心理学に詳しい先生が望ましいです。
  • いわゆるコーチングは、完全に私の主観ですが、基本的信頼の回復には向かないと思います。

アイデンティティ
1.一定以上の高さの自己肯定感
人間関係と仕事(学生なら、勉強やバイト、部活・サークルなど)で成果を出してください。詳細は以下を参照ください。尊敬欲求を得るためにする努力は、そのまま自己肯定感を上げることにつながります。
心理学② マズローの欲求段階説 | Jアカブログ (j-academia.com)


2.その人独自の価値体系
近々、これ用のワークも出します。しばらくお待ちください。



今回は以上です。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

追記
より詳しくエリクソンのライフサイクル論を勉強したいという方のために、『ライフサイクル、その完結』という本を推薦しておきます。エリクソン先生の著作はたくさんありますが、私はこれが1番お勧めです。本格的に勉強されたい方は、どうぞご購入ください。




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